こんな機能は誰も使わないよ、と思いながら機能を実装して、実際に客先ではその機能が一度も使われなかったという場面が以前はよくあった。ウェブアプリを作っている今はあまりそういうことはない。これは業界の違いだろうと思う。
一点物のソフトやパッケージでは、最初にカネを払っているから、使い始めてからわかる不都合は売上には直撃しない。使ってわかる使いやすさというのは客観的な評価が難しいから、そうなるとどうしても、使い勝手を向上するより、買いたいと思ってもらうように機能一覧表のマルバツのマルを増やす方向に開発リソースを注ごうということになる。こうして機能は豊富だけど、たとえば起動だけで20秒かかるような製品が出来上がる。一方ウェブアプリはたいてい試用が無料で手間もかからないから、全体の使いやすさを直接評価してもらえる。
オンラインと違ってパッケージソフトではユーザの実際の使用状況がよくわからないということもある。例えばマイクロソフトはOfficeのスペルチェッカがどのくらい使われているのか正確には知りようがないだろう。オンライン版のOfficeならわかる。なにかを変更してそれがある機能の使用頻度を増やしたとしたら、おそらくそれはその機能にとってよい変更だし、そういうふうに改善が評価できるというのは強力なことである。
というわけで僕が思うに、ウェブアプリ業界はパッケージソフトよりユーザビリティを向上する方にどうしても開発リソースを振り向ける構造になっている。結果として、一部ではすでにそうなっているように、ウェブアプリがパッケージソフトのユーザビリティを全体として上回ることになると思う。そうなるのが業界の構造だとしたら変化は誰に求められないのだ。たとえばMicrosoft Officeよりウェブアプリのスプレットシートやワープロを選ぶ理由が、使いやすくて反応も早いから、という時代が、意外なくらいすぐ来ると思う。