エリック・シュミット
Googleの元CEOで現会長。UCバークレーで電子工学・コンピュータサイエンスの博士号を取得。コンパイラを書くときに使われるLexのオリジナル作者の一人としてコンピュータサイエンスの歴史に名を刻んでいる(論文)。1990年台後半にNovellの社長を務めたあと、2001年から2011年までGoogleの社長を務める。総資産83億ドル(1兆円)で、創業者でもなくこれだけの財を成した人物は珍しい。社長をできる人物を探していたラリー・ページとサーゲイ・ブリンを感銘させてCEOとして雇われたらしいが、確かに彼は話がいちいち説得力があって面白い。趣味としてパイロット免許も持っている。
マイクロソフトの共同創業者で、1995年以降いまだに世界で一番金持ちの男(2015年現在、資産総額800億ドル=9.5兆円)。13歳のころ、まだパーソナルコンピュータというものがなかった1960年台からプログラミングを始めるという幸運に恵まれる。その後Microsoftを創業し、BASICインタープリタなどを書いて売ってかなり儲ける。極めてテクニカルな部分までよく知っている経営者で、Microsoft創業後の5年間ほどは出荷するプロダクトのコードの一行一行をレビューしていたという。ミーティング中に「本物のプログラミング」が行われていないと思った時は「君たちがやっているのはコードをただいじくりまわしているだけだ。私はFATファイルシステムをフライト中に書いたぞ」(I wrote FAT on an airplane, for heaven's sake)などと言って発破をかけていたりしたらしい。確かにこういう異常に詳しい人物がCEOをやっているといろいろと(いい意味で)面倒だ。
マーク・ザッカーバーグ
中学生からプログラミングを始めて、高校生のころに音楽プレーヤーソフトを作ってSlashdotに投稿したりしていた。ハーバードに入学したころにはすでにプログラミングがうまい人物として周囲には名前が知られていたらしい。2002年にはTopCoderをちょっとやっていた(mzuckerberg)。2004年にFacebookを書いて、その後爆発的にユーザが増えたのは御存知の通り。相当ユーザが増えた後でもプロダクションのPHPを直接変更してテストする(無論バグっているとユーザにそのまま見えてしまう)といったようなことをやっていたらしい。まあ本来はよくないんだが、わからなくもない。
リード・ヘイスティングス
1988年にスタンフォードのコンピュータサイエンスで修士号を取得。不正なメモリアクセスを検出するツールPurifyを書いて(Purifyの論文)、それを元にPure Softwareを設立。Purifyの手法は当時としては斬新だったのだろうと思う。1995年に上場、1997年にRationalに買収される(IBMがその後Rationalを買収して、IBM Rational Purifyとしてまだ製品が存在する)。その資金を元手に次はNetflixを創業する。Netflixは最初は郵送DVDレンタルサービスだったが、ビデオストリーミングサービスをいち早く立ち上げて大成功させる。現在北米のインターネットトラフィックの1/3はNetflixのトラフィックだという。なぜレンタルDVD屋が急速にストリーミングサービスを立ち上げるのに成功したのか不思議に思っていたが、CEOは極めてテクニカルな人物であった。
ジェフ・ベゾス
プリンストンを電子工学・コンピュータサイエンス専攻で卒業。ウォール・ストリートで働いた後、いろいろ検討した結果、書籍をネットで売るビジネスはいけるということになり、1994年にオンライン書店としてAmazonを創業。自宅のガレージから始めるという典型的なスタートだった。当初は客が本を購入すると取次に発注をかけてそれを転送するという在庫なしの商売をやろうとしていたが、届くまでに日数が掛かり過ぎるのは問題だということで倉庫を持って在庫を持つモデルに転換。その後商品の取り扱いを増やし、さらにそのインフラを使ってAmazon EC2やS3といったクラウドコンピューティング分野を切り開く。フォーブスの資産家ランキング15位。個人的にエンジニアリングに興味を持ち続けていて、最近では数年間かけて大西洋を探索させて、初めて月に着陸したアポロ11号の一段目のロケットエンジンを海底から発見・回収したりしている。金持ちの趣味というのはすごい。
ラリー・ページ
スタンフォードのPhDの学生だったころに検索エンジンの新しいランキングのアルゴリズムを考案してPageRankと名付ける(論文)。考案するだけでなく実装するためには、インターネットの主要なページをすべてダウンロードしてきて大規模な計算を行わなければいけないので難易度が高い。最初のころのURLはgoogle.stanford.eduだった。後に法人化してGoogleを創業。確かに検索精度は群を抜いてよかった。当時はデータセンターは電力消費量に関係なくラック単位で課金されていたので、コルクボードを絶縁のために下にしいて安価なPCのマザーボードをラックに詰め込めるだけ詰め込んだカスタムのシステムを作って、分散処理を行ったりしていた。他のサーバと違って下りのトラフィックのほうが多いからというので(回線は上り下りが対称だけどサーバはだいたいユーザに送るデータのほうが多いので下りが余りがち)、ラリーがデータセンターと交渉して値引きさせていたりしたらしい。
マリッサ・メイヤー
よく雑誌の表紙などに出てくるYahooのCEO。1999年スタンフォードでコンピュータサイエンスの修士号を取得。昔はラリー・ページとデートしていたらしい(狭い世界だ)。その後Googleをやめて、ごたごたの続いていたYahooのCEOに就任。低迷していた株価を数倍引き上げることに成功する。
ポール・グレアム
有名なLispハッカーの一人。Common LispでViawebというオンラインショッピングサイトのASPを立ち上げて成功させて、それをYahooに売却した。当時は競合がCGIで苦労して書いていたものをCommon Lispでは簡単に実装できたので、Lisp使いだったというアドバンテージは相当あったようだ。その後、その資金を元にY Combinatorを立ち上げる。Y Combinatorの最初のプログラムが始まった時のことは私はまだ覚えているが、なんだかよくわからない学生か何かに数ヶ月の生活費とサーバ費用を提供するので部屋にこもってハックさせる、みたいな話で、へぇと思っていたのだけど、その後そこからDropboxやAirBnBのようなユニコーン企業が続々と生まれて大変なことになってしまった。自分の会社を成功させて、その後他の会社を続々と成功させる仕組みを作るということにも成功して、2回うまくやっていて本当にすごい。ちなみに今では常識的なものになっている統計的スパムメールフィルタを考案したのもこの人。
ロバート・モリス
ViawebとY Combinatorをポール・グレアムと一緒に始めた男。あまり名前がでていなのは本人が目立たないようにしていたからで、なぜそうしていたかというと、1988年に世界で最初のインターネット・ワームを書いて、MITのネットワークから放って、当時インターネットに接続されていたコンピュータの何%〜何割かをダウンさせたという前歴があるからである。本人が思っていた以上に増殖してしまったらしい。ちょうどコンピュータの不正使用を犯罪として扱う法律が成立したころで、目新しかったこともあり、モリスは新聞の一面をでかでかと飾ることになってしまった。結局、社会奉仕活動と罰金が科せられることになったのだけど、それ以降はしばらく目立つことは避けるようになってしまった。そんなに悪意があったとは思えないし、やろうとしてできることでもないが、いずれにせよその後実業界で成功し、現在はMITの教授。
(余談だが警察関係といえば、Facebook以前に世界最大だったソーシャルネットワーキングサイトのMySpaceの共同創業者のトム・アンダーソンは、1985年、14歳の頃Chase銀行をクラッキングしていて自宅を15人ものFBI職員に急襲された。若すぎたので罪に問われなかった。スティーブ・ジョブズも長距離電話ただ掛け装置を売って一儲けしていたりしている。)
このリスト、いくらでも長くできそうなのでこれくらいにしておく。マイクロソフトの新CEOのサトヤ・ナデラもコンピュータサイエンスで修士号だ。むしろコンピュータサイエンスの素養がないひとが経営しているケースというのがあまり思いつかない気がする。別の畑の人というと、ペプシコーラのCEOからアップルのCEOに転職して、スティーブ・ジョブズを追放したジョン・スカリーなんかが思い浮かんでしまう。
卑近な例で言えば、昔日本企業に務めていたころの僕の仕事は「わかっていない上の人」(あるいは「わかっていない取引先の人」)に、プログラムというものを多少正確さは犠牲にしてでも噛み砕いて説明する、というのがまあまあ大きな割合を占めていたりした(一方向ハッシュ関数とは何かみたいな説明をしたのを覚えている)。最近ではむしろ上の人のほうが異常に詳しいのでそういうのは全然ない。正直なところ、技術的にいまいちな人がやっているIT企業かメディア企業か曖昧な程度の会社ばかり目立ってもなんだかがっかりなので、アメリカ以外でもこういうふうな会社がどんどん増えて成功事例が増えると面白いと思う。